湖底

爆裂ハートフルコメディ

「永野愛理」という物語

 

「アイドルとは、物語である」

 

アニメWake Up, Girls!の劇中で語られたこのセリフが象徴するように、声優ユニットWake Up, Girls!7人のデビューから現在に至るまでの道程もまた物語である。7人それぞれに物語があり、どれもがドラマチックで魅力的なのだが、今回は誕生日を祝して僕の推しである永野愛理さんの物語を紐解いていく。

なお当然ながら僕はいちオタクでしかなく、彼女のことは各種メディアやイベントで目にしたことしか知り得ないので、以下の文章はただのポエムである。事実誤認、解釈違い等が含まれている可能性が高いことを予め断っておく。

 

One In A Billion

ここで改めて、7人がWUGのオーディションを受けた動機をまとめてみる。

 

吉岡茉祐:幼少期から芸能界を志望し、劇団ひまわりに入団。らき☆すたの舞台出演をきっかけに山本監督の新作オーディションを知り応募。

田中美海:声優になるのが小学生の頃からの夢で、WUGに落ちたらミルキィホームズフェザーズを受けるつもりだった。

青山吉能:同じく声優志望。第1回avex×81アニソン・ヴォーカルオーディション受験組。ミルキィの「エリーを探せ」オーディションも受けていた。

山下七海:歌手志望で、徳島のスクールに通っていた。2012年には徳島のカラオケ大会で準グランプリ獲得*1。AAAに憧れていたことから、エイベックス主催のWUGオーディションに応募。

奥野香耶:元々声優志望で、専門学校入りを親に反対され大学進学するも、オーディションを受け続けてきた。4年になり、ラストチャンスとしてWUGに応募。

高木美佑:第1回アニソン・ヴォーカルオーディション受験組。最終選考で落選し、周囲の合格者らに刺激を受け再挑戦。

永野愛:漠然と声優に憧れていたが、大学卒業後は就職するつもりだった。地元が舞台の作品ということで受けてみたところ合格。

  

永野 まゆしぃみたいな芸能の世界への憧れみたいなのは私の中にもあったんです。ダンスもやっていたし、表舞台に立ってみたいって気持ちはありました。でも大学にも入って、流石にもう落ち着いて、いずれ就職してOLになって……みたいなイメージだったんです。

─大人になるにつれてだんだん現実に寄っていく。

永野 そうなんです。でもそんな時に地元の仙台を舞台にしたアニメがあって、『涼宮ハルヒの憂鬱』の山本寛監督で、しかも二次審査で仙台までオーディションに来てくれるという話を聞いて。それなら受けてみようという、結構軽い気持ちでした。なので受かるとは1mmも思っていなかったです。ちょっとでもアニメに出られたらいいなと思っていたら、気づいたらWUGのメンバーになっていました。*2

永野愛理さん以外の6人は第2回アニソン・ヴォーカルオーディションがWUGという作品でなくても応募していただろうし、WUGが無くても別の形で表舞台に出てきていた可能性が大いにあった。しかし、彼女だけはこの作品が仙台を舞台にしていたから応募に至り、声優デビューを果たしたのだ。WUGが無ければこの子は大学を卒業後、そのまま仙台で一般人として人生を送っていただろう。

 

これは奇跡だと思う。

 

2018年8月、わぐらぶファンミーティングでWUGオーディション時の映像が公開された。オーディション時のあいちゃんが「暗かった」という話は以前から何度か話題に上がっていたが、実際に映像を見たら予想以上だった。あんな低いテンションで「星間飛行」を歌う女性は未だかつて見たことがない。ただ、姫カット永野愛理さん(19)はメチャクチャ可愛かった。

失礼を承知で言えば、アイドルアニメの主役級オーディションで受かるとは思えないレベルだった。だが、その暗さや平凡さが林田藍里というキャラクターとのハイパーリンクを生み出した。

──最初はあまり上手くなかったのを敢えて採用したのは、何か光るものがあったわけですよね。

山本 まずひとつは、やはり仙台を舞台にした作品で仙台出身の子がいないと話にならないということですね。もうひとつは、直感です(笑)。実は彼女と別のある子が最後まで競り合っていて、なかなか決まらなかった。最後の決め手はやはり彼女が藍里だな…というひらめきですね。藍里はとりえのない普通の子という設定は決まっていて、ぱっと見たイメージやキャラクター性が合うのは彼女だということで決まりました。*3

Wake Up, Girls!という仙台を舞台にしたアニメのオーディションが一般募集で行われ、Wake Up, Girls!に林田藍里というキャラクターがいたという奇跡に導かれて、永野愛理は声優になった。

 

ヒカリキラリミルキーウェイ

「声優」とは無敵の肩書きだと僕は思っている。作品とキャラクターを背負うことで、通常個人の力では立てない大きなステージに立つことができるからだ。そして最低限アニメやゲームで何らかの役を持っていれば、歌ったり踊ったりしていても、舞台に出ようが写真集を出そうが好きな野球や餃子の話をしていようが許される。

逆に「声優」という肩書きを失った途端に、同じことをしていても勝負する相手が声優界だけでなく有象無象のタレント全員になる。作品から個人へ、個人から作品へとファンが循環する声優界にいることは、タレント活動を行う上で大きなアドバンテージを持つ。

そんな無敵の肩書きを持つWake Up, Girls!の一員となったことで、永野愛理さんは多彩な才能を開花させる機会を手に入れた。

小4から磨いてきたダンスの能力は、MONACAをはじめとする強力なクリエイター陣による最強の楽曲と7人編成の華麗なフォーメーションを得て、これ以上無いと思えるほど素晴らしい形で日の目を浴びることになった。いくらダンスの腕を磨いてきても、ダンサーとしてではSSAのような大舞台で主役としてスポットライトを浴びることは無かっただろう。

もう一つの彼女の大きな武器が「野球」だ。声優になっていなければ、ただの野球好き女子で終わっていたはずだ。しかしWUGでデビューし、そのWUGが東北楽天ゴールデンイーグルスとコラボしたおかげで彼女の深い野球愛は広く知られることとなり、文化放送ホームランラジオへの出演、そしてパっとUPというレギュラー冠番組の獲得という道が開かれた。

2017年8月には始球式投手としてKoboパーク宮城(当時)のマウンドに立ち、嶋基宏のミットめがけてボールを放つという快挙を成し遂げた。僕もスタンドから見守ったが、この日の永野愛理さんは本当に輝いていた。夢を叶えた女性の姿はこんなにも美しいのかと。この時の弾けるような笑顔が、僕が愛理推しになる決定打となった。

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もちろん与えられただけではない。彼女の存在はまた、Wake Up, Girls!という作品・ユニットをより強くした。

林田藍里同様、一歩引いた視点でメンバーを俯瞰する優しさ。他メンバーのボケに素早く突っ込む瞬発力。常に周りが見えていて、いつもどうすれば観客が喜んでくれるのかを第一に考えている。

7人の中でも随一のキレを誇るダンスが、WUGのステージパフォーマンスをグッと引き締める。まゆしぃの低重心なイケメンダンスとも、みゅーのバレリーナダンスとも違う、指先まで神経を研ぎ澄まされた全身を使っての感情表現(鷲崎健はそれを「人生」と評した)は他の追随を許さない。

彼女が担当した地下鉄ラビリンスやoutlander rhapsody、タイトロープ ラナウェイ、ハートラインの振り付けは多くの人を虜にした。特にTUNAGOやPolarisのようなメッセージ性の強い楽曲において、与えられた振り付けをこなすだけでなく、メンバー自身によるクリエイティビティを持ったことの意味は大きい。

また先日の記事にも書いたが、彼女が本気で楽天を愛していたからこそWUGは単発のコラボではなく5年連続でコラボナイターを開催するまでに至った。

そして何より、東北への思い。4thツアーの主題に「TUNAGO」を据え、グッズの数字「313」に込めたメッセージ。わぐらぶバスツアーでワグナーを閖上に案内するという決断。Polarisの歌詞に「波」という言葉を入れた覚悟。彼女がいたから、WUGは5年間真摯に東北と向き合い続けたユニットになったのだと思う。

 

あとひとつ

2018年3月18日、宮城県 石巻 BLUE RESISTANCE。仙台からさらに車で1時間かかる石巻のライブハウスで開かれた永野愛理ソロイベントは約300人のワグナーで満員だった。

ライブはダンサー2人を従えたダンスパフォーマンスで開幕。ユニットでのダンスとは違う、本気のソロダンスを存分に見せつけた。ソロ曲「桜色クレッシェンド」「minority emotions」を交え、15曲を披露した。例年通り、WUGの曲は1曲も歌わなかった。

 

彼女は「歌は苦手だし自信ないけれど、それでも伝わるものがあると思って歌う」と語った。その通りだった。「栄光の架橋」なんてどう考えても音域も合わないし明らかに苦しそうだった。最後の「あとひとつ」は最初から泣いててまともに歌えていなかった。

でも、間違いなく思いは伝わった。東北の地に生まれた彼女が、3月の石巻でこれらの曲を歌う意味。震えた歌声や必死の表情から痛いほど伝わった。

この日、永野愛理は石巻に満開の桜を咲かせた。

ameblo.jp

 

Like a SAKURA

ソロイベで彼女は「私は桜の幹になりたい」と言った。ファンという桜の花を咲かせられる存在になりたいと。

今になって、もう一つの意味があるんじゃないかと思う。

Wake Up, Girls!という花は今年3月で散ってしまう。それでも、永野愛理という幹が残っていれば、また新たな花が咲くはずだ。

昨年12月、舞台Stray Sheep Paradiseで生き生きとルクル役を演じる彼女の姿を観て、僕はもっともっと「役者・永野愛理」の姿を見たいと強く思った。先日は「温泉むすめ」の松島名月役が決まり、今後も宮城ゆかりの作品と歩んでいくことになった。今年は「八月のシンデレラナイン」のTVアニメも始まる。まだまだ桜の花は咲かせられる。

それが春とは限らない。スロースターターな*4彼女のことだし、次に花が咲くのは秋かもしれない。オレンジの紅葉の中、一つだけ桜が咲いていてもいい。

 

「自分らしさから生まれた景色を、信じて、感じて、愛して、それでいいんだよ」

  

*1:なお、このときのグランプリは現A応Pの堤雪菜さん

*2:第2回【永野愛理 インタビュー】 – リスアニ!WEB – アニメ・アニメ音楽のポータルサイト

*3:山本寛監督 vs「Wake Up, Girls!」 特別インタビュー企画|Wake Up, Girls!

*4:「私スロースターターで、中学時代にやっていたバトミントンの部活とかでも、最初はレギュラーになれなかったのが、3年生になったら一番手になって区で優勝したりしてたんです。私ダンスも最初は本当に下手で、一番下のクラスだったので…やっぱり、ずっと自分のペースで頑張ってるタイプではあるかもしれません」山本寛監督 vs「Wake Up, Girls!」 特別インタビュー企画|Wake Up, Girls!